更年期にコレステロールが上がる理由|甲状腺・認知症リスクとの意外な関係と対策

脂質代謝(全体的な栄養状態)

コレステロールが上がるのは「食べ過ぎ」のせいじゃない?

「急にコレステロールが高くなってきた…」「今まで正常だったのに、健康診断で引っかかってショック!」

そんなお悩みをもつ人は少なくありません。

特に、更年期前後の女性の方が当てはまるケースも多いです。

実は、これは「食べすぎ」「年齢のせい」だけではなく、女性ホルモンや甲状腺の変化が関係している可能性もあります。

更年期にホルモンバランスが変わるとコレステロールが上がりやすくなる

更年期になると、女性ホルモンである「エストロゲン」が大きく減少します。
エストロゲンには、LDL(悪玉)コレステロールを下げ、HDL(善玉)コレステロールを保つ働きがあります。

そのため、閉経にともないエストロゲンが減少すると、

  • LDLコレステロールが上昇しやすくなる

  • HDLコレステロールが低下しやすくなる

という変化が起きやすくなります。

つまり、「今まで正常だったのに急にコレステロールが上がった」という場合、女性ホルモンの急激な減少が影響していることもあります。

甲状腺機能の低下がコレステロール上昇を加速させる

年齢を重ねると共に、「甲状腺ホルモン」の働きもコレステロール値に影響を与えます。

「甲状腺ホルモン」は、全身の代謝をコントロールする大切なホルモンで、コレステロールの代謝にも関わっているのです。


甲状腺の機能が低下すると、体内のコレステロールがうまく使われなくなり、血中に余ってしまいます。

甲状腺ホルモンは、肝臓でのコレステロールの取り込み・代謝を促進する働きがあります。

そのため、甲状腺機能が低下すると、肝臓が血中のLDLコレステロールを十分に取り込めなくなってしまいます。

これは単に「コレステロールを作りすぎている」わけではなく、「処理しきれない」状態になっている可能性が高いということです。

「コレステロール値が高いから、体の中にコレステロールがいっぱいなんだ」と思っていませんか?

実際は、必要なところでうまく使われていないために、血中に“余っているように見える”だけということもあります。

この場合、単にコレステロールの合成を抑える薬を使っても、根本的な解決にならないことがあります。

甲状腺機能低下による認知症リスクの増加に関する研究

最近の研究では、甲状腺機能低下が認知症のリスクを高める可能性があることもわかってきました。

例えば、2022年に発表された大規模な研究では、「甲状腺機能が低下している高齢者は、正常な人よりもアルツハイマー病のリスクが高くなる」という結果が出ています。

研究例①

米国:国立老化研究所の支援による大規模研究(2022年)
米国、台湾、ドイツなどの複数の大学と医療機関による国際共同研究チームが、2022年に約15,000人を対象とした解析を行い、甲状腺機能低下症のある高齢者は、認知症(特にアルツハイマー型認知症)の発症リスクが高まるという結果を発表しました。

  • 特に治療されていない甲状腺機能低下症(潜在性含む)では、認知症のリスクが約80%増加

  • 70歳以上の女性では、リスクがさらに高まる傾向があった

出典:Thyroid dysfunction and dementia: A systematic review and meta-analysis (Journal of Alzheimer’s Disease, 2022)

研究例②

ロッテルダム研究(オランダ) 1990年代から続く疫学研究

  • 約9,000人以上を対象に長期追跡した調査で、甲状腺ホルモンのレベルが低い人は、認知機能の低下や認知症のリスクが高かった

  • 特に、血中TSH値が高く、T3/T4が低い傾向にある人にリスク上昇が見られた

出典:Thyroid function and dementia risk: The Rotterdam Study

 

更年期に起きる「ホルモンの変化」は、コレステロールだけでなく、脳の健康にも関係しているのです。


(認知症リスクに関連する項目は甲状腺機能の他にもいくつかあります。詳しくは「認知症・アルツハイマー病リスクを示す血液検査データとは?予防のために今できること」をチェックしてください)

甲状腺機能と認知症が関係する理由

甲状腺ホルモンは、脳の発達や神経の働きに深く関わっており、

  • 神経細胞の代謝

  • 神経伝達物質の合成

  • 脳内血流の調整

などに重要な役割を果たしています。

さらに近年では、甲状腺ホルモンの低下が「脳内の老廃物(アミロイドβ)」の排出機能を妨げる可能性も指摘されています。

「アミロイドβ」は、アルツハイマー型認知症の特徴的な所見として知られていますが、蓄積を防ぐ代謝機構がうまく働かなくなることが、脳の機能低下と関連している可能性があります。※

つまり、甲状腺ホルモンの不足は、脳内の神経細胞の修復や代謝を滞らせ、慢性的な炎症を引き起こす可能性が高く、認知機能の低下や記憶力の低下につながると考えられます。

(※ただし、アミロイドβ自体が認知症の根本原因であるとは限らず、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています)

検査と対策は?

  • TSH(甲状腺刺激ホルモン)

  • FT3・FT4(甲状腺ホルモン)

といった血液検査で、甲状腺の状態を確認できます。

特に40代以降の女性で、疲れやすさ・冷え・むくみ・物忘れが気になる方は、一度検査を受けてみるのがおすすめです。(甲状腺機能と血液検査について)

甲状腺機能を整えるために自分でできる対策は、こちらを参考にしてください。

コレステロール低下薬のリスク

コレステロール低下薬(スタチンなど)は、肝臓でのコレステロール合成を抑えることで血中コレステロール値を下げます。

その影響で体が本来必要とするコレステロールまで不足することがあり、

  • ホルモン合成の低下

  • ミトコンドリア機能の低下

  • 筋肉痛や倦怠感

  • コエンザイムQ10(心臓や脳、筋肉のエネルギー代謝に不可欠な成分)の合成阻害

    などの副作用が起こる可能性があります。

    また、スタチンの長期使用が認知機能に影響する可能性を指摘する研究もあり、「数値を下げること」だけが健康ではないという視点も重要です。

    とはいえ、コレステロール値が高すぎる状態が続くと、血管へのダメージや動脈硬化のリスクが高まることも事実です。

    必要に応じて薬を使わなければならない場面もあるかもしれませんが、栄養療法の世界では、栄養成分を使って体にやさしくサポートする方法にも注目が集まっています。

薬を使わずにコレステロールを下げるコツ7選

コレステロールは、ホルモンや細胞膜の材料にもなる、体にとって欠かせない大切な物質です。

だからこそ、薬でただむやみに数値を下げるだけでは、根本的な解決にはなりません。

「コレステロールが高いと言われたから、卵や肉を控えている」
という人もいらっしゃるかもしれません。

でも実は、食事からとるコレステロールの量は、血中コレステロール値にそれほど大きな影響を与えないことがわかってきています。(もちろん食べ過ぎは良くないですが)

むしろ、体内でのコレステロール代謝やホルモンバランス、腸や肝臓の働きの方が、はるかに大きな影響を持っているのです。

できるだけ薬に頼らず、自然な形でコレステロールを調整していくためには、次のような方法があります。

①胆汁酸をしっかり排泄する:水溶性食物繊維(もずく・舞茸・こんにゃくなど)で、使い終わったコレステロールを体外へ

②糖代謝を整える:血糖値の乱高下は脂質代謝にも影響大。血糖値の乱高下を防ぐことも重要

③適度な運動を習慣に:有酸素運動・筋トレでHDLとLDLのバランス改善

④脂質の質を見直す:青魚やえごま油など良質な脂をとり、悪玉コレステロールを抑える

⑤抗酸化:血管や脂質の酸化を防ぐ「抗酸化物質」を含む食材(野菜・果物・緑茶など)を積極的に摂る

⑥腸内環境を整える:腸内環境が整うとコレステロールをスムーズに排泄

⑦サプリメントの活用:(コレステロールを下げるサプリメントについては、また別の記事で詳しく解説したいと思います)

まとめ

更年期のコレステロール上昇は、女性ホルモンや甲状腺ホルモンの影響によって起こりやすいです。

甲状腺の健康は「認知機能の健康」とも密接に関係していることが分かってきています。

コレステロールの数値に一喜一憂するのではなく、「なぜ今この変化が起きているのか?」を考えることで、自分に合った対策や生活の選択肢を意識していくことが大切です。

タイトルとURLをコピーしました