チック症の本当の原因とは。

 

神経伝達物質が大きく関わっている症状の一つである、「チック症」について説明します。

チック症には神経伝達物質のアンバランスが関係している

 

従来、チック症の原因は養育環境などにあるとされ、心因性、心身症と考えられてきました。実際に、チックは何らかのストレスが引き金になって発症し、症状が憎悪するように見えることも少なくないようです。

例えば、小学校での友達関係のストレスや、勉強のストレス、下の子が生まれたことがきっかけでチック症になった、というケースもよくみられます。

しかし、最近の研究により、チック症のそもそもの原因は、神経系の発達過程の異常に起因しているということが分かってきたのです。

そもそもチック症の原因の一つとして、ドーパミンを中心とする神経伝達物質のアンバランスの関与が考えられます。

なぜなら、一般的にチック症状の改善にはドーパミンの分泌を減少させる作用のある薬物や、ドーパミン神経受容体の働きを遮断する(あるいはドーパミンとノルアドレナリンが作られる過程を阻害する)薬物が有効である一方、ドーパミンの働きを促進する薬物によってチック症状が悪化するからです。

このことから、チック症は、ドーパミン神経からドーパミンが過剰に分泌された状態、または、その受け皿である受容体が増加した、または受容体が過敏に反応している状態のいずれかによって症状が発現すると考えることができます。

さらに、神経終末部から分泌されたドーパミンの大部分は「ドーパミントランスポーター」と呼ばれる再取込み口から再びドーパミン神経終末部に取り込まれるわけですが、この再取り込みが障害されることもドーパミン過剰状態を起こし、チックを発現させる可能性も考えられます。

さらに、チック症にはノルアドレナリン神経系に働く「クロニジン」が有効である例もあることから、ノルアドレナリン神経系の関与も予測することができます。

 

チック症の薬で症状が悪化する理由

実は、チックに対する治療法は専門家の間でも方針に差があり、確立しているとは言えないというのが現状です。

一般的には、ドーパミン神経の受容体を阻害する「ドーパミンD2受容体阻害剤」(ハロペリドールやピモジドと呼ばれる薬)が使用されることが多いようですが、効果は必ずしも一定していない上に、副作用が出ることもあります。

ある症例では、ドーパミン神経の受容体を阻害する「ハロペリドール」の服用によって、症状がピタッとやんだのもつかの間、薬の服用を続けていたら今度はさらに症状がひどくなってしまったというケースも報告されています。この患者さんの場合、L-ドーパ(ドーパミン)を少量(一回15mg×2回/日)投与することにより、症状が緩和されたといいます。

おそらくこのケースでは、チック症の原因がドーパミンが多すぎることで起こっているのではなく、ドーパミンの受容体が過敏に反応していることで症状が出ていると考えられます。そして、脳の中でのドーパミン受容体の要求に見合う量のドーパミンを投与することで症状が緩和したというわけです。

 

チック症の発現と、子どもの脳の発達について

 

最近の研究によると、チック症の原因は、ドーパミン神経系とセロトニン神経系の活性の低下にあるということがわかってきています。

つまり、上記の症例は決して例外ではないということです。

実は、ドーパミン神経系は、意欲や動機付け、幸福感だけでなく、子供の脳における「大脳基底核」やそれに関連する前頭葉を発達させる役割も持つと言われています。「大脳基底核」とは、社会性や情緒・行動の発現に関わる重要な部分なので、その機能が十分に発揮できないと、対人関係の障害などとして現れることになります。

実際、乳幼児の脳におけるドーパミン神経は成人の6倍以上の活性を有し、10歳までに急速に低下、15歳までにかなりの速さで低下していき、その後はゆっくりと低下し、20代の前半で成人のレベルに下がると言われています。

しかし、チック症では年齢によるドーパミン神経の減少が通常よりも早く進むため、脳を発達させるために必要なドーパミンが少ない状態になってしまっているのではないかと考えられます。すると、ドーパミン不足を補うために脳内のドーパミン受容体を増加させることで大脳基底核や前頭葉を正常に発達させようとして、受容体が過剰出現しているか過敏に反応しており、これがチックの発現につながるのではないかというわけです。

その裏付けとなるのが、チック症は大脳基底核の発達過程で最も重要な時期である6歳を中心とする幼児期後半から小児期前半が最も発症しやすい年代であり、急速に成人レベルに近づく10歳前後が症状の最も激しくなる年齢であるということです。

 

ドーパミン神経系を抑制することによるもう一つの副作用

前述の通り、チック症に対する薬物治療では通常、ドーパミンの分泌を減少させる作用のある薬物や、ドーパミン神経受容体の働きを遮断する薬が用いられるのが一般的です。しかし、これらの薬を使うことで、一時的にチックの症状は抑えられたとしても、ドーパミン神経系が大脳基底核などの発達にも関係してるということは、薬によってその働きを抑えてしまうことで、大脳基底核の発達も抑制してしまうのではないかと懸念する声が出されています。

特に小児の場合、薬を長期使用することは、脳の発達に対する影響が大きくなってしまうため、投与する量や期間には注意が必要であると考えられます。

ただ、多くのケースではチック症は進行性に増悪するものではなく、ドーパミン神経系の発達過程が終わり成人のレベルに近づく思春期ころに軽快あるいは消失することが多いと言われていますが、ドーパミン神経系の脳の発達に対する役割が少なる思春期以降になっても、かなりチックの症状が残っているような場合には、ドーパミン受容体阻害剤による治療を継続していくという選択肢も考えられます。

 

セロトニン神経系を活性化させることはチック症の軽減につながる

チック症の対策としては、精神的ストレスを少なくする、薬を使用をする、などといったことが一般的に言われていますが、もう一つ、非常に重要なのが、セロトニン神経系を活性化させることです。

なぜなら、セロトニン神経系にはドーパミン神経系を安定させる作用があり、ドーパミン神経系の活性化に対する脳の過剰反応を軽減してくれるからです。つまり、セロトニン神経系を活性させることは、チックの軽減につながる可能性が高いと言えます。

実際、チック症を持つ人は、体質的にセロトニン神経系の活性が低下しているため、昼間に十分な活動をしないと夜眠れなくなりやすいということが多いようです。夜眠れない日が続けば、さらにセロトニン活性は低下するという悪循環が起きてしまいます。

さらに、セロトニン神経系とノルアドレナリン神経系は、抗重力筋の緊張と歩行運動の制御に関係しており、これらの神経系の異常があると、猫背や側弯になるリスクが高まるともいわれています。

 

チックになりやすい人とは

 

チックを引き起こす大きな原因として考えられるのは、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質のアンバランスであるということは、メチレーションの状態によってチック症になりやすい人とそうでない人がいる、ということが考えられるのではないでしょうか。

なぜなら、脳神経におけるシナプス間隙の神経伝達物質の量は、神経終末の再取り込み口の量で決まり、この取り込み口を作るたんぱく質の量は、メチレーション状態によって決まるからです。

(「メチレーション」て何?という方は、こちらをチェックしてください)

 

セロトニンとドーパミン活性が低いタイプと言えば、低メチレーション。つまり、低メチレーションの人はチック症になりやすいと言えるのかもしれません。

 

低メチレーションの人の特徴として挙げられるのは、

強迫性神経症になりやすい
完璧主義
競争心が強い、意志が強い、頑固、恐怖症、過去へのこだわり
食事の内容が毎日同じ傾向
季節性アレルギー(花粉症など)になりやすい

などです。

低メチレーション気味の人の特徴を長所としてみると、几帳面で頑張り屋さん、真面目で何事もきっちりやらないと気が済まない、といったところでしょうか。

強迫症状も、行き過ぎれば日常生活に支障をきたし本人にとって辛い症状となってしまいますが、一定の限度内にとどまっていればむしろ几帳面さなどの長所として機能することもあります。

一方、トゥレット症候群(重度のチック症)では、チックの他に行動や情緒に関する症状が認められることも多く、よく見られる兆候の中として強迫性神経症、不安、うつ、睡眠覚醒リズム障害などが挙げられます。

 

チック症の子どもの特徴としてよく見られるのは、低メチレーションの長所として挙げられるような几帳面さや真面目さの他にも、注意深い、人の気持ちがよくわかる、よく気が付く、神経質な傾向 などといった特徴です。

 

心が繊細で優しい子、というイメージですよね。

 

セロトニン神経系を活性化させる方法

 

セロトニン神経系は、遺伝的な要素に加え、環境にも大きく左右されると言われています。

まずはやはり、精神状態がとても大事です。

その他にもセロトニン神経を活性化させるためにできることとしては、日中の活動レベルを強化する、歩行やランニング等の適度な運動、日中は日の光を十分に浴びる、睡眠リズムを整える、ストレス解消、人とのふれあいや癒しの時間を持つ、そして、腸内環境を整えるということも非常に大切です。

セロトニン活性を亢進させる栄養素としては、メチオニン、トリプトファン、イノシトール、カルシウム、マグネシウム、ビタミンB2、B6、ビタミンDなどが挙げられます。

 

こうして様々なアプローチでセロトニン活性を高めていくことは、チック症の軽減だけでなく、それに伴う強迫症状やうつ、睡眠障害などを防ぎ、チック症の子どもや大人が本来持つ良い面を活かし、快適にその人らしく生きられるようにするために役立つと考えられます。